脳がアルコールを欲しがる理由:渇望の神経科学
要点: アルコールへの渇望は、条件づけられたドーパミンの放出、ストレス系の活性化、そして深く刻まれた習慣の回路によって起きる神経の出来事です。弱さのしるしではありません。学習された脳の反応であり、理解し、予測し、少しずつ小さくしていけるものです。
アルコールへの渇望は、驚くほどの力と、いかにも筋の通った顔つきでやってきます。ふいに、一杯という考えが魅力的なだけでなく、切迫した、どうしても必要なものに思え、いくつもの言い訳がなだれ込んできます。渇望のあいだ脳で実際に何が起きているのかを理解しても、渇望が消えるわけではありません。しかし、渇望との関係は根本から変わります。
渇望は条件づけられた反応です
渇望の科学的な理解は、古典的条件づけから始まります。イワン・パブロフの元の実験では、犬はベルのあとに必ず食べ物が来るため、ベルの音でよだれを出すようになりました。渇望も同じ仕組みで働きます。
何百回、何千回という飲酒の場を通じて、脳は特定の状況、時間、感覚、感情を、飲んだあとに来るドーパミンの高まりと結びつけてきました。その連合は神経回路に刻み込まれます。やがて、アルコールそのものではなく、その手がかりに出会っただけで、脳は先回りしてドーパミン系を動かしはじめます。
研究者はこれをインセンティブ・サリエンスと呼びます。ドーパミンは、アルコールと、それに結びついた手がかり――人、場所、もの――を、アルコールの報酬的な作用と結びつけて学習するうえで決定的な役割を果たします。そしてこの学習の過程は、手がかりそのものに強い動機づけの価値を与えます。かつてアルコールが担っていた意味を、手がかりのほうが背負うようになるのです。
渇望とは、脳が学習した予期の反応です。切迫した欲求として感じられますが、それは予測であって、必要ではありません。
「欲しい」と「楽しい」は離れていく
依存症の研究は、多くの人の実感と重なる区別を立てています。アルコールへ向かう駆り立てと、飲むことの快さは別の系であり、時間とともに離れていくのです。
多量の飲酒を繰り返すと耐性ができ、アルコールが快さを生み、不快をやわらげる力は落ちていきます。それがさらに量を押し上げることもあります。その一方で、動機づけの装置――手がかりに結びついたインセンティブ・サリエンス――はそのまま残るか、むしろ強まります。
これが、多くの人が語る経験を説明します。強く飲みたくなり、飲み、しかし満たされない。駆り立てのほうは学習されたもので、見返りのほうは薄れてしまったのです。得るものが減っていくのに、衝動だけが残ります。
ストレスと渇望のつながり
脳のストレス系と渇望の系は、深く絡み合っています。CRF(副腎皮質刺激ホルモン放出因子)というホルモンが、その両方で中心的な役割を果たします。
拡張扁桃体の神経細胞は、副腎皮質刺激ホルモン放出因子やダイノルフィンといったストレス関連の神経伝達物質を放出し、ストレス反応に関わるほかの脳領域に影響します。アルコールは最初、この構造の活動を抑え、ストレス反応をやわらげます。
飲酒が止まると、その同じ回路が過活動になります。研究者がハイパーカティフェイア、つまり強まった否定的な情動と呼ぶもの――イライラ、不安、不快感、心の痛み――が生じます。しばしばただ「みじめさ」と表現されるその不快さこそが、次の一杯を促すものです。
ストレスと気分の落ち込みは、渇望の高まりと多量飲酒の場面に強く結びついています。これは単なる心理的な連想ではなく、ストレス系と渇望の回路を直接つなぐ結びつきです。
習慣の系と、自動的にやってくる渇望
時間がたつにつれて、飲むという行動は、意識的で意図的な意思決定(前頭前皮質が司るもの)から、自動的な習慣(線条体と大脳基底核が司るもの)へと移っていきます。習慣は繰り返しによってつくられ、意識的な意図よりも状況の手がかりによって引き起こされるようになります。
だから渇望は「自動的」に感じられます。飲むことについて考えようと自分で決める前に、すでに現れているのです。バーの前を通りかかる、あるウイスキーの銘柄のにおいをかぐ、夕方6時に帰宅する――飲酒と繰り返し結びついてきた手がかりはどれも、渇望に関わる回路を自動的に動かしえます。
飲酒のパターンが繰り返されると、脳は制御を前頭前皮質による意識的なコントロールから、大脳基底核を使った習慣の形成へと移します。しかも同時に、アルコールは前頭前皮質の働きそのものを損ないます。衝動を抑えるのに必要な、まさにその回路をです。習慣が強くなる一方でブレーキが弱くなる――だからこそ、環境を変えること(習慣を変える、家からお酒をなくす)は、心のなかの工夫と同じくらい強い力を持ちます。
渇望の時間的なかたち
臨床上とても大切な指針があります。渇望には時間の限りがある、ということです。NIAAA が臨床家に勧めているのは、飲みたいという衝動はたいてい短く、予測でき、御することができると患者に伝えることです。
正確な長さは人によっても状況によっても異なるので、具体的な数字は疑ってかかってください。変わらないのは、そのかたちです。渇望は立ち上がり、頂点に達し、そして引いていきます。アルコールを飲んでも飲まなくても、です。強さは、この先どうなるかを告げる信号ではありません。
これが「衝動の波乗り」の土台です。渇望に従って動かずに眺め、すぐに解消すべき緊急事態としてではなく、頂点に達してから引いていくものとして見守ることです。引き金をあらかじめ名指ししておく価値があるのも、このためです。NIAAA は、外的な引き金(飲むことを思い出させる人、場所、もの、時間帯、曜日)と、内的な引き金(ふとよぎる考え、高揚のような肯定的な感情、気分の落ち込みや苛立ちのような否定的な状態、緊張のような身体感覚)を区別しています。外的な手がかりのほうが分かりやすく、予測しやすく、避けやすいものです。いちばん難しいのは、その両方が重なったときです。
渇望と戦うのではなく、付き合う
渇望を個人の失敗ではなく神経の出来事として理解すると、応じ方が変わります。渇望の引き金とパターンを記録すること――Rebuild の利用者の多くがしていることです――は、渇望の回路を確実に動かしている手がかり、時間帯、感情の状態を特定する助けになります。でたらめな切迫に見えていたものが、実はきわめて規則的だったと分かることがよくあります。
そう分かれば、環境と行動への手当ては、漠然としたものではなく的を絞ったものにできます。渇望の回路は学習されたものです。適切な入力があれば、少しずつ学習をほどいていけます。
参考文献
- National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism (NIAAA). "Neuroscience: The Brain in Addiction and Recovery." https://www.niaaa.nih.gov/health-professionals-communities/core-resource-on-alcohol/neuroscience-brain-addiction-and-recovery
- National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism (NIAAA). "Support Recovery: It's a Marathon, Not a Sprint." https://www.niaaa.nih.gov/health-professionals-communities/core-resource-on-alcohol/support-recovery-its-marathon-not-sprint
- National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism (NIAAA). "Recommend Evidence-Based Treatment: Know the Options." https://www.niaaa.nih.gov/health-professionals-communities/core-resource-on-alcohol/recommend-evidence-based-treatment-know-options
よくある質問
断酒初期に渇望が強いのはなぜですか
断酒の初期は、報酬回路の活動が低く、ストレス回路が活性化し、条件づけられた手がかりへの反応がまだそのまま残っています。この組み合わせが強い渇望の状態を生みます。励みになるのはここからです。断酒を始めて続けることは、時間とともに渇望と気分の落ち込みを減らす助けになり、それがさらに多量飲酒の場面を減らします。
渇望は完全になくなりますか
多くの人にとって、断酒を続けるうちに渇望はかなり少なく、弱くなっていきます。人によっては、結びつきのとくに強い手がかりに対して、長期にわたってときおり渇望が残ります。注目すべきことに、NIAAA によるアルコール使用障害からの回復の研究上の定義は、渇望を、残りうる唯一の症状として扱っています。つまり、臨床的には回復していても、ときおり衝動が来ることはありうるのです。それを永続的な欲求ではなく学習された反応として理解すれば、扱いやすくなります。
渇望と身体的な離脱症状はどう違うのですか
離脱症状は、依存が成立した系からアルコールが取り除かれたときの急性の神経化学的なリバウンドによって起こり、振戦、発汗、心拍数の上昇、重い場合にはけいれんのリスクといった身体症状を含みます。渇望のほうは、飲酒へ向かう心理的・動機的な衝動であり、条件づけられたドーパミン反応とストレス系によって駆動されます。同時に起こりうるものの、仕組みとしては別のものです。
薬は渇望に効きますか
効きます。ナルトレキソンは、飲酒の報酬的な作用に関わるオピオイド受容体を遮断することで働き、まだ飲んでいる段階から始めることができます。アカンプロサートはグルタミン酸系に作用し、脳が断酒に適応していく過程で現れる不安、落ち着かなさ、不快感、不眠をやわらげます。どちらも依存性はなく、どちらもプライマリケアで処方できます。そして、どちらもきわめて使われていません。2021年のある分析では、過去1年にアルコール使用障害のあった成人のうち、処方を受けたのはわずか1.6%でした。医療者に相談してみる価値があります。